腸内細菌を正しく理解する
ー入門・基礎編−
「『腸内細菌を理解すること』は同時に『人体そのものを理解する』ことになる」。基礎・臨床医学、微生物学、薬学の専門家が執筆した、臨床につながる腸内細菌学の入門書籍です。
必要不可欠な基礎的知識を網羅したうえで、疾患と腸内細菌のかかわりについても最新の研究から解き明かしていきます。栄養との関係、プロバイオティクスとプレバイオティクスなど、近年多数の情報が発信され整理しづらい分野についても、たしかな根拠に基づく知見をご提供します。
医学生から臨床医まで、腸内細菌についてたしかな知識を得たい方におすすめの1冊です。
腸内細菌の発見は、今からさかのぼること約350年前、オランダのアントニ・ファン・レーウェンフックによるものといわれている。顕微鏡を発明した人物として有名な彼は、フェルメールの絵画のモデルともなっているが、地球儀を真剣に回している天文学者として描かれたものもある。腸内は果てしない闇が広がる「小宇宙」に例えられることもあるが、レーウェンフックは、既に腸内に宇宙を感じていたのかもしれない。かくしておびただしい数の腸内細菌が腸内に存在し、それが一定のバランスを保った社会のように存在すること(腸内細菌叢≪そう≫と呼ぶ)はわかってきたが、その働きをあまりにも軽視したまま、私たちの医学は発展してしまったといえる。とくに多くの消化器科学が、内科系も外科系も腸内細菌叢の存在を考慮せずに展開してきてしまった。抗菌薬の長期投与、大腸全的をはじめとする消化管手術、長期にわたる経静脈栄養・・・など「最新の医学技術」といわれている治療のなかにも、腸内細菌叢を無視し続けたツケを患者が払っている例は数多くあるのではないかと危惧している。現在進行中の腸内細菌不在のまま成り立ってきた治療としては、経腸栄養剤の開発、クローン病などに対する成分栄養治療、食物アレルギーの根拠を、誤っているとすれば、どのような代替治療、補助治療が必要なのか、これから腸内細菌の観点から考えていかねばならない。
本書では、「腸内細菌の入門編・基礎編」と称し、ゆるがし難い根拠をもとにした基礎的な事項を記した。後篇として、次回刊行をめざす「応用編」を企画して、主に最新の研究、臨床応用的な内容を主体として、随時情報を更新していけるものを考えている。対象は、「入門編・基礎編」は、栄養士、医学生から一般臨床医までとし、なるべく平易な理解しやすい言葉遣い、図表を多用することを心掛け、いつでも開いてみられる「バイブル的な本」を目指していきたい。
腸内細菌は、人体で作られる機能的なタンパクは、ほとんどすべて生成可能なばかりではなく、人体でつくりえないタンパクもつくりだせるポテンシャルを持っていることより、「腸内細菌を理解すること」は同時に「人体そのものを理解する」ことになる。腸内細菌を研究することは、ヒトの病気のカギを探り、理にかなった治療を探す重要な敷石になるであろう。
(中略)今までの腸内細菌医学が、単なる「おなかによい細菌をヨーグルトで摂りましょう」のような先入観をなくして、本書を読んでいただけたら、きっとまったく新しい観点から、自分が歩んできた、またはこれから歩んでいく道を明るく照らす灯になろうかと信じ、そのような本を目指した。